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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)2637号 判決

本店所在地

東京都足立区西新井三丁目六番三号

株式会社 高柳工業

(右代表者代表取締役 高柳剛通)

本籍

茨城県行方郡麻生町大字白浜二一七番地

住居

東京都足立区西新井三丁目六番三号

会社役員

高柳剛通

昭和一〇年三月八日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官河内悠記出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社高柳工業を罰金七五〇万円に、被告人高柳剛通を懲役六月にそれぞれ処する。

被告人高柳剛通に対し、この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社高柳工業(以下「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、土木建築請負等を目的とする資本金二四〇〇万円(昭和五一年三月三〇日以前は八〇〇万円)の株式会社であり、被告人高柳剛通(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空仕入を計上する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四八年一〇月一日から同四九年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八九七万四九一九円あつた(別紙(一)の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年一一月二六日、東京都足立区栗原三丁目一〇番一六号所在の所轄西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一一三二万七二四六円でこれに対する法人税額が三七二万八三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五三年押第一四号の符号一)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二二七八万七一〇〇円(税額の算定は別紙(三)の一計算書参照)と右申告税額との差額一九〇五万八八〇〇円を免れ、

第二  昭和四九年一〇月一日から同五〇年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四五四四万〇二二四円あつた(別紙(二)の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年一一月二九日、前記西新井税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一七七七万二〇七七円でこれに対する法人税額が五八三万三九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の符号二)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一六八六万三二〇〇円(税額の算定は別紙(三)の二計算書参照)と右申告税額との差額一一〇二万九三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

第一  判示冒頭事実を含む判示事実全般につき、

一  被告人の当公判廷における供述並びに大蔵事務官に対する質問てん末書(三通)及び検察官に対する供述調書(乙1ないし4)

一  登記官作成の登記簿謄本(甲一1)

第二  別紙(一)及び(二)の各修正損益計算書掲記の各勘定科目別「当期増減金額」欄記載の数額のうち、

(イ)  完成工事高(別紙(二)〈1〉)につき、

一 大蔵事務官作成の完成工事高(代表者居宅)調査書(甲一2)

(ロ)  当期仕入材料高(各〈4〉)につき、

一 大蔵事務官作成の架空仕入調査書(甲一3)

(ハ)  外注工事費(別紙(一)〈7〉、同(二)〈5〉)につき、

一 大蔵事務官作成の架空外注工事費調査書(甲一4)

一 同減価償却費(建物等)調査書(甲一5)

(ニ)  給料(別紙(二)〈23〉)につき、

一 大蔵事務官作成の給料調査書(甲一7)

(ホ)  接待交際費(別紙(一)〈30〉、同(二)〈32〉)につき、

一 大蔵事務官作成の接待交際費調査書(甲一8)

(ヘ)  諸税公課(別紙(一)〈31〉、同(二)〈33〉)につき

一 大蔵事務官作成の未払事業税調査書(甲一9)

一 同未払源泉税調査書(甲一10)

(ト)  減価償却費(別紙(一)〈37〉、同(二)〈38〉)につき、

一 大蔵事務官作成の減価償却費(備品)調査書(甲一11)

一 前掲甲一5

(チ)  受取利息(別紙(一)〈39〉、同(二)〈40〉)につき、

一 大蔵事務官作成の受取利息調査書(甲一12)

一 同受取利息(過大計上分)調査書(甲一13)

(リ)  価格変動準備金繰入額(別紙(二)〈48〉)につき、

一 西新井税務署長作成の証明書(甲一14)

(ヌ)  交際費損金不算入額(別紙(一)〈50〉、同(二)〈56〉)につき、

一 大蔵事務官作成の交際費損金不算入額調査書(甲一15)

(ル)  雑損(別紙(二)〈61〉)につき、

一 大蔵事務官作成の雑損調査書(甲一17)

第三  別紙(一)及び(二)の各修正損益計算書掲記の各勘定科目別「公表金額」欄記載の数額並びに過少申告の事実につき、

一  押収にかかる被告会社の法人税確定申告書二綴(昭和五三年押第一四号の符号一、二)

(貸付金利息、役員報酬及び貸倒引当金超過認容額について)

検察官は、被告会社が代表者である被告人に対し、昭和四九年九月期、同五〇年九月期の各期首に、それぞれ四四四万〇八三六円、二六八七万三〇一〇円の各貸付金債権を有していたことを前提として、右各期中に、それぞれ期首貸付金額の各五パーセントに相当する二二万二〇四一円、一三四万三六五〇円の各貸付金利息収入及びそれぞれ右と同額の役員報酬の支出があつたものとして両建処理するほか、昭和四九年九月期の貸倒引当金超過認容額に五万七四六八円の益金加算をなすべき旨主張し、太蔵事務官作成の代表者貸付金調査書(甲一18)、同検察官に対する回答書(甲一19)、同貸付金利息及び役員報酬調査書(甲一6)、同貸倒引当金調査書(甲一16)中には、右主張に副うかの如き記載がある。

しかし、右各証拠に被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書三通及び検察官に対する供述調書(乙ないし4)を綜合すれば、被告会社は、まさに検察官主張の如く被告人のワンマン会社で、被告人は、妻敬子に記帳と金の管理を手伝わせる程度で、他に会計担当者も置かず被告会社の経理一切を自ら切り廻していたものであり、下職の者の協力により架空外注工事費を計上して得た簿外資金で簿外接待交際費を支弁する一方、取引先会社に勤務する実妹の協力により架空仕入を計上して得た簿外資金を自宅の建築資金、実弟・義姉等に対する貸付金その他の個人的用途に費消していたのであつて、前記各期首貸付金なるものの実体は、本件査察によつて判明した右個人費消額の各前期未残高に過ぎないことが認められる。

これによつて見れば、被告人は、被告会社経営の実権を一手に掌握していることを奇貨として公私を混同し、架空仕入によつて得た会社の簿外資金を恰も個人資産の如く擅に使用して来たことが窺われ、会社と代表者間の貸借関係の如きはおよそ念頭になかつたものと認めるのが相当である(被告人がいかに被告会社を私物視していたかは、被告人が自宅の建築を被告会社に請負わせ、その基本工事分の工事原価が請負金額四二二〇万円を五〇〇万円余も上廻る四七二七万九一〇八円に達したのに、公表上の工事高は請負金額のままとし、差額を簿外処理していたことにも如実に現われている。)。かように、被告会社と代表者間の金銭消費貸借契約はその実体において存在しないのであつて、消費貸借契約書の不存在、取締役会の承認の欠如といつた検察官のいわゆる形式的、皮相的観点のみを以てこれが否定されるのではないのである。

もつとも、被告人は、検察官に対する供述調書において「私としても会社の金を泥棒のように使うつもりはなかつた」と述べ、公判廷においては更に進んで「借りるつもりでやりました」と述べているが、右はいずれも本件査察によつて被告人の個人費消の事実が発覚し、事後処理としての金銭消費貸借契約書作成後の時点におけるものであり、これらの事実が明らかとなつたうえで検察官の追究を受ければ、横領の犯意がなかつたことを陳弁するためにも「借りる意図であつた」旨を供述するのは見易い道理であり、かかる後日の弁疏を額面どおり受け取つて、係争期中における金銭消費貸借契約の存在の立証としようとすることこそ、検察官の非難して止まない「皮相的な見方」の典型と評するほかはない。

もはや多言は要しまい。前提にしてすでに認められない以上、標記貸付金利息以下の科目はその根処を失い、証明不十分といわざるを得ない。

別件においてもしばしば指摘している如く、以上の裁判所の判断は、いわゆる代表者貸付金に関する被告会社の事後処理が不当であるとして論難するものでないことに留意する必要がある。右事後処理は会社資産保全のため当然のことであるが、ただ、その処理がなされた期以後の問題とすれば足りるのであつて、敢てこれを昭和五〇年九月期以前に遡らせることの不合理を指摘するに過ぎないことを念のために付言しておく。

(法令の適用)

法律に照すと、判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法第一五九条第一項(被告会社については、さらに同法第一六四条第一項)に該当するところ、被告人については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法第四八条第二項により合算した金額の範囲内において罰金七五〇万円に、被告人については同法第四七条本文、第一〇条により犯情最も重いと認める判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において懲役六月にそれぞれ処し、被告人に対し同法第二五条第一項を適用してこの裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 半谷恭一)

別紙(一) 修正損益計算書

株式会社高柳工業

自 昭和48年10月1日

至 昭和49年9月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

株式会社高柳工業

自昭昭和49年10月1日

至 昭和50年9月30日

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)の一 税額計算書

株式会社高柳工業

自 昭和48年10月1日

至 昭和49年9月30日事業年度分

〈省略〉

別紙(三)の二 税額計算書

株式会社高柳工業

自 昭和49年10月1日

至 昭和50年9月30日事業年度分

〈省略〉

〈省略〉

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